夏の空を仰ぐ花
そう思って、あたしは補欠の背中に頬を寄せた。


夏の暑い夕風を切り開くように加速し続ける自転車。


補欠の鼓動に耳を澄ませる。


ごめんね、補欠。


嘘ついて、隠して、ごめんね。


上空は済んだ夏空で晴れ渡っているってのに。


にわか雨、か?


ぽつり、ぽつり、と冷たい滴が頬を濡らした。


雨……じゃないや。


補欠の後ろで空を見上げて、ようやく気づいた。


あたし、泣いてたんだ。


全部、夢だったらいいのにと思った。


ペダルをこぎながら、補欠がおおきな声で話しかけてくる。


「明日も晴れるといいよな」


「……うん」


ああ、なんて澄み切った夏の空なんだろう。


青に朱色が混ざりかけている、夕方の夏空色。


あたし、幸せだ。


それなのに、なんで泣いてるんだろう。


夢だったらいいのに、心の片隅でぼやいて、あたしはそっと目を閉じた。


つつう、と頬を伝い落ちる涙を夏の暑い風が冷やした。


目を開けた時、すべてが夢でした、そうだったらどんなにいいだろう。


病気になったこと、手術が必要になってしまったほど、腫瘍が大きくなっていることも。


全部、夢ならいいのに。


それが叶わないのなら、せめて。


明日なんて永遠に来なくていいから、今が永遠に続けばいいのにと思った。


明日が来る、それが怖い。


今があって、補欠が居れば、他は何も望まないよ、あたし。
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