夏の空を仰ぐ花
「んだっすな。こんな暑っちい中、球技大会とかムリ!」


アニメの声優のような個性的な声で結衣が言うと、


「しかも、バスケとか悲惨!」


と艶っぽい大人びた声で明里が続けた。


「球技大会とか誰が考えだんだよ! 頭わりーなあ」


おお。


清楚な顔立ちの明里がそんなこと言うと、ギャップがありすぎてけっこうびびる。


ふたりの声に耳を傾け、机に伏せてだらだらしながら、あたしは静かに目を閉じた。


いつも以上にざわざわと賑やかな、放課後の教室。


帰宅部たちが口々にしているのは、明日の事だ。


年に一度、この南高で開催される、球技大会。


その話題で放課後の教室は持ちきりだった。


「なー、翠ー」


蝉時雨に紛れて結衣のキンキン声が耳に流れ込んで来る。


「明日、フケない?」


もちろん、できることならそうしたいさ。


あたしだって、球技大会なんぞかったるいったらない。


目を閉じたまま何も答えないあたしを、明里が呼ぶ。


「翠? なに寝たふりしてんだよ。翠って」


うるせい。


あたしゃ、非常に機嫌がよろしくないんじゃ。


ふたりを無視して、あたしは狸寝入りを続けた。


ちくしょう。


こんなはずじゃなかった。


むしゃくしゃして、たまらん。



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