夏の空を仰ぐ花
「ノープロブレム」
これ以上目を合わせていると毛穴の奥まで見透かされそうで、都合悪くて、あたしの方から目を反らした。
「そっか」
蓮も、それ以上突っ込んで来ることはなかった。
始業式は亜熱帯雨林地のように茹った体育館で始まった。
「我が校の誇り高き伝統を受け継ぐためにも……」
校長先生のつまらない挨拶。
全校、約700名がきつきつに密集した空間。
立っているだけなのに毛穴から噴き出る、汗。
苛立ちさえ覚えるほどの、息苦しい暑さ。
「……なんだ?」
くらくらした。
「結……衣……?」
目の前にある結衣の赤毛も、舞台上で肩っ苦しい挨拶を終えようとしている校長先生の姿も、ゆらゆら、陽炎のように歪んで見える。
暑さによるくらくら感とは別物の歪みに、次第に焦りに似た感情が芽生え始めていた。
あたしは大きく息を吸い込んで、ゴクリと息を飲み込んだ。
胃に、握り潰されたような圧迫感が走り、終いには強烈な吐き気が込み上げて来た。
目の前がグラリと歪み、吐き気を飲み込みながら、前にいた結衣に肩につかまった。
「何だよ、イタズラすんなって言ってんだろ」
振り向き様に結衣がニヤリと笑って、あたしを肘で小突いた。
ほんのちょっとの、小さな力だったのに。
普段なら、これしきの力なんて屁にも値しないのに。
あたしは簡単にぐらついて、左隣の知らない男子のワイシャツにとっさにつかまった。
「……えっ、あのっ」
話したことすらない彼がびっくりした顔をしていた。
額から伝い落ちる脂汗がするりとすべり落ちて、顎からしたたる。
彼が、とっさにあたしを支えてくれた。
「だ……大丈夫?」
「は……あ……?」
ぐるぐる、ぐるぐる、回った。
これ以上目を合わせていると毛穴の奥まで見透かされそうで、都合悪くて、あたしの方から目を反らした。
「そっか」
蓮も、それ以上突っ込んで来ることはなかった。
始業式は亜熱帯雨林地のように茹った体育館で始まった。
「我が校の誇り高き伝統を受け継ぐためにも……」
校長先生のつまらない挨拶。
全校、約700名がきつきつに密集した空間。
立っているだけなのに毛穴から噴き出る、汗。
苛立ちさえ覚えるほどの、息苦しい暑さ。
「……なんだ?」
くらくらした。
「結……衣……?」
目の前にある結衣の赤毛も、舞台上で肩っ苦しい挨拶を終えようとしている校長先生の姿も、ゆらゆら、陽炎のように歪んで見える。
暑さによるくらくら感とは別物の歪みに、次第に焦りに似た感情が芽生え始めていた。
あたしは大きく息を吸い込んで、ゴクリと息を飲み込んだ。
胃に、握り潰されたような圧迫感が走り、終いには強烈な吐き気が込み上げて来た。
目の前がグラリと歪み、吐き気を飲み込みながら、前にいた結衣に肩につかまった。
「何だよ、イタズラすんなって言ってんだろ」
振り向き様に結衣がニヤリと笑って、あたしを肘で小突いた。
ほんのちょっとの、小さな力だったのに。
普段なら、これしきの力なんて屁にも値しないのに。
あたしは簡単にぐらついて、左隣の知らない男子のワイシャツにとっさにつかまった。
「……えっ、あのっ」
話したことすらない彼がびっくりした顔をしていた。
額から伝い落ちる脂汗がするりとすべり落ちて、顎からしたたる。
彼が、とっさにあたしを支えてくれた。
「だ……大丈夫?」
「は……あ……?」
ぐるぐる、ぐるぐる、回った。