夏の空を仰ぐ花
鮮やかな緑色の折り紙で折った、鶴。


全部、その色にしたのは緑があたしのラッキーカラーだから。


「……」


横目で見ると、補欠は鞄の中を見つめたままフリーズしたままになっていた。


飽きっぽいあたしが鶴を折り出したのは、夏の大会が始まった頃からで。


面倒な日は折らなかったから、日数より少ない103羽になってしまったわけだけど。


毎晩、寝る前に一羽ずつ。


祈りを込めて、折り続けてきた。


補欠がエースになれますように、って。


何がなんでも、甲子園に行けますように、って。


「テイクオーフ!」


一羽の折り鶴をポーンと投げると、


「ワンダホー!」


それは小さな弧を描き、毛布の上にポトリと着陸した。


「アテンションプリーズ、アテンションプリーズ! この度は翠ジャンボに御搭乗戴きまして、あんがとさーん! 機長の吉田です。この便は、チャーター便になっとりまーす!」


毛布の上に着陸した小さな緑色の、飛行機を補欠がじっと見つめていた。


優しい、やさしーい、目で。


「この便はただいま、県立南高等学校、硬式野球部を乗せて東京の上空を優雅にぶっ飛んでいるとこでーす! 安全飛行してやるから、快適な空の旅をお楽しみくださーい!」


ごめんね、補欠。


こんなことになっちゃって、ごめんね。


だけど、あたしのことなんて二の次でいいからさ。


だから、夢、叶えてよ。


大切な野球ほっぽりだして駆けつけて来てくれた、あたしの大切な彼氏へ。


本日限定の、しがない、返礼で申し訳ないけど。


これが、今日のあたしにできる精一杯。


「この便は、まもなく、兵庫県上空を一周したのち、甲子園球場に着陸予定でーす!」


大丈夫、行けるよ。


甲子園に、行けるよ、南高校野球部は。


このディープグリーン色の小さなジャンボジェット機が、連れてってくれるからさ。


突然、あたしに左手を両手で握って、補欠が声を震わせた。


「翠、ごめん」


「……補欠?」


泣いてんの?


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