夏の空を仰ぐ花
心配しないで。


補欠。


あたし、治すからさ。


だから、また、毎朝一緒に登校してくれる?


あの自転車の後ろに、あたしを乗っけてくれる?


不思議な気持ちになった。


涙は止まらないし、なのに、あたしは心から笑っていた。


天気に例えるなら、にわか雨みたいに。


あたし、補欠がいれば、他は何も望まない。


大好きなセシルとジルの服も靴も、買っても買ってもすぐに減るメイク道具も。


ハイパー大好きなあゆのCDも、愛読してるファッション雑誌も。


水代わりのペプシコーラも。


世界をまたにかける通訳になるっていう、将来の夢だって。


全部、要らないから。


だから、あたしから夏井響也だけは取り上げないでください。


補欠は、あたしの、全部なのだ。


彼を取り上げられでもしたら、あたしの人生はパタリと途絶えてしまうんだと思う。


好きで好きで、とてつもなく、大好きで。


すごく強情だし、アホみたいに頑固で、昔堅気で。


口数も足りないけど、その分、補欠が口にする言葉には、どれにも特別な意味があって。


優しくて、物静かで。


もし本当に神様がいるのなら、聞いてください。


あたし、もう、欲ばったり、ないものねだりもしないよ。


だけど、ただ、あたしから夏井響也を取り上げる事だけはしないでください。


帰り際、補欠があたしの鞄から、一羽の折り鶴を取り出した。


緑色の鶴を手のひらに乗せて、補欠は笑った。


「なあ、これ、一羽だけ借りてってもいい?」


一体、何をするんだろう。


お守り代わりにでもすんのかな。


「いいけど」

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