夏の空を仰ぐ花
ゆっくりカーテンを開けて、


「お……おほほほお……」


うっとりした。


音を立てないようにそーっと施錠を外し、静かに静かに窓を開けた。


ぽう……ぽう……ぽわ。


なんて、優しい光なんだろう。


その、膨らんでしぼむ、点滅する光にあたしは夢中になった。


この光に見覚えがあると思った。


だけど、それが何なのか分かるまで、時間がかかった。


外はミストシャワーのような霧雨で、それなのに月が出ていた。


そのか細い月明りよりも、目の前のぼんやりと点滅する光に夢中になった。


8月が終わろうとしている。


もうすぐ9月になって、秋が来るのに。


「お前、まだ生きてんのかよ。強いな」


霧雨といえども、れっきとした雨が夜を潤している。


「お疲れさん」


雨宿りでもしに来たんだろうか。


こんな高いとこに、わざわざ。


ぽわ。


点滅する、おぼろげな光。


窓のさっしにへばりついていたのは、ひとりぼっちの蛍だった。


「てかさ、お前さあ、ひとりで何やってんの?」


もしかしたら、あたしは、誰かと話をしたかったのかもしれない。


蛍は昆虫で、会話なんかできるわけないのに。


そんなことくらい分かってるのに、話しかけていた。


「お前さあ、もう飯食った?」


さあさあ、やまない霧雨。


「眠くないの? あ、夜行性か?」


蛍を見たのは、いつ以来だろう。


「あ。そういや、お前らって寿命短いんだよな? 確か」


小学生の時、昆虫図鑑で調べた事がある。


もう何年も昔だから、うろ覚えだけど。


「お前らってさあ、恋のためにそうやって光ってんだろ?」


ぽう。


蛍が、黄緑色に光った。
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