夏の空を仰ぐ花

紫陽花色の嵐

9月。


そのことを告げられたのは、入院生活も板についてきた良く晴れた朝だった。


「手術の日が決まったぞ」


朝から雲ひとつ見当たらない青空が、窓の外いっぱいに広がっていた。


「ふむ、苦しゅうない。言うてみよ」


「ははー。恐れながら」


会話はふざけたように交わされるが、これはお互いに緊張を必死に隠しているという証だった。


出勤前の母が、いつになく緊張した面持ちで口を開いた。


「9月15日」


一瞬、蒼白状態になった。


その直後、打ちのめされたのは言うまでもない。


「いやー、何の冗談かね。参ったな、おい」


衝撃の大きさで、手が震えた。


「まったくだ」


母もショックだったのだろう。


肩を落とした。


あたしと母は同時にカレンダーを見て、同時に溜息を落とすしかなかった。


なんだって、その日なのか。


寄りによって、15日ときたもんだ。


「翠、これはどうにもできんぞ。ちゃんと言えよ、響ちゃんに」


「分かってらい……分かってらあ」


隠し事や嘘なんてものは、所詮バレるためにあるような愚かなものだ。


神様ってのは、ちゃんと居る。


それで、そういう、人間の普段の行いを審査していて結論を下す。


オーディションみたいに。


「今日、補欠が来たら、言うから」


もう、手術を受ける、受けたくない、そんな事を言っている場合ではないらしい。


腫瘍は思いのほか高速スピードの著しい成長を見せ、ついに脳内の圧迫を始めてしまったのだ。

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