夏の空を仰ぐ花
帰ろ、帰ろ。


とふたりは楽しげに話しながら、教室を出て行った。


「なーにが“分かるー”かね……分かってねえなあ」


机の上でぐだぐだしながら、あたしは不機嫌に呟いた。


「何も分かっとらん」


なーにが。


無愛想だけど、だ。


さりげなく優しいし、だ。


あいつの何をどれくらい分かって、そんなことほざいてんのさ。


きみたちには3千万年早い。


……そう簡単に分かられてたまるか。


フンッ、と犬のくしゃみのように鼻を鳴らしてふてくされている時だった。


「「あ、夏井だ」」


結衣と明里が窓辺から身を乗り出して、声を揃えた。


「なっ……なにーっ! どこどこ!」


バアーンと椅子をひっくり返して立ち上がり、


「「ギャッ」」


と声を上げたふたりを両サイドに突き飛ばして、


「おどきっ!」


あたしは窓から上半身を乗り出した。


「どっこらしょーい」


3階の窓から身を乗り出し、あたしはサッシに左足を乗せた。


「みっ、翠ーっ!」


今にも飛び降りでもしそうな体勢のあたしに、ギャーと悲鳴を上げて結衣と明里が飛び付いてきた。


「危ねーって!」


「頼むから降りてくれ!」


降りてたまるか。


「ええーい! 止めるな! あたしは本気だ!」


邪魔すんなー、とあたしは叫んだ。



< 46 / 653 >

この作品をシェア

pagetop