夏の空を仰ぐ花
3階から落るのが怖くて、恋なんかやってられるか。


「「翠ーっ!」」


心配ご無用!


「離せー」


腰にしがみつくふたりをベンベン振り落として、下を見渡した。


「……いた」


黒いズボンに、爽やかに真っ白なワイシャツ。


こざっぱりと丸めた、坊主頭。


黒いエナメル質のスポーツバッグを肩から斜めに背負い掛けて。


「補欠、発見」


グラウンドに向かって、彼は青空の下をひとり歩いていた。


真下にいる生徒たちが、上の騒がしさに気付いてギョッとして立ち止まる。


最高に気分がいい。


サッシに左足を掛けてさらに身を乗り出すと、空を飛んでいるような気分になった。


あたしに羽根があったら、バッサバサ音を立てて、今すぐそこに飛んで行けるのに。


迷わず飛んで行くのに。


身を乗り出したまま、あたしはその後ろ姿に叫んだ。


「補欠ーっ!」


あたしの声が校庭に響く。


でも、彼は気付く様子なくスタスタ歩いて行く。


「何だ! 補欠の耳はケツ穴か?」


ムッとして振り返ると、残っていたクラスメイトたちが青ざめて、顔を引きつらせていた。


無論、結衣も明里も。


「いやいや……それを言うなら“フシ穴”でしょうが」


と突っ込んできた結衣の声が震えていた。



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