夏の空を仰ぐ花
「うぬぼれてんじゃねえぞ。勘違いすんなよな。お前は特別強いわけじゃねえし、普通の女だ。強がって、平気なフリしてんじゃねえよ」


補欠の言葉たちにハッとした。


どれもこれも、完全なる図星だった。


そうか。


そうだったのか。


あたし、今の今まで、自分は他の女とは違って強い女なんだって思ってたけど。


そっかい。


「だから、しんどい時はしんどいって言えよ。辛いなら、態度に出せばいいだろ? そういうの、翠の得意分野だろうが」


あたし、普通の女だったのか。


そっか、そっか。


補欠の前では、弱くてもいいのか。


「……うん」


目の奥がじわじわと熱くなって、ひと粒の涙が頬を伝い落ちた時、健吾が言った。


「おうおう、翠。お前ひとりが苦しんでると思うなよ」


「……あ?」


鼻水がダラダラ流れた。


「だから、お前ひとりがしんどいんじゃねえんだって。それなりに成績いいくせに、そんな事も分かんねえのかよ」


そう言って、健吾が補欠の脇腹を小突いた。


「おい、響也。何とか言ってやれよ。この跳ねっ返りによう」


補欠が、あたしの腕を掴んでぐいっとたぐい寄せた。


「翠がしんどいなら、おれはその倍しんどい」


「おれだって同じだ」


と、今度は健吾があたしの左腕を掴んだ。


「響也と翠がしんどそうにしてると、こっちがしんどくてたまらんわ」


やってらんねえぜ、そう添えながら、健吾がやわらかく笑った。


健吾が続ける。


「おれたちの未来には保証なんかないけど。保険も掛けられねえけど」


「だから」


今度は補欠が言った。


「甲子園に連れてくとか、何様みたいな事言ってさ。もしかしたら、一回戦敗退するかもしれねえんだけど」


「けど、おれらなりに死にものぐるいの野球するから」


なっ、と健吾が補欠に振った。

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