夏の空を仰ぐ花
あたしは左手をブンブン振り回しながら、叫んだ。


「おおーい! 補欠ーっ!」


すると、彼はあたふたしたあとスポーツバッグを左手に抱えて、一目散に引き返して来た。


「おお……戻って来た」


下校する生徒たちをするするかわしながら戻って来て、あたしの真下で立ち止まり、上を見上げた。


「みっ……翠……! ……!」


小さく小さく、その声が3階に上ってくる。


しかし、さすが3階だ。


「はあ? どうした、補欠」


さすがにこの距離ではしっかりハッキリ聞き取るのは難しい。


「何! ぜんっぜん聞こえん!」


アハハと笑うあたしに、補欠は両手でオーバーにジェスチャーしてきた。


降りろ、降りろ、と。


「ふむ……そこまで言うなら、しょうがねえなあ」


どっこらせ、と声を出して、あたしは野良猫のようにひらりと床に着地した。


「……ん?」


顔を上げると、クラスメイトたちが真っ青を越えて、顔面蒼白になっていた。


「どうした、みんな」


引きつり顔のみんなに背を向けて、あたしはまた窓から顔を出した。


真下を見る。


「よっ! 補欠!」


ぽかんと口を開けた補欠が、真下に立ち尽くしていた。


補欠はほっとした顔をしたあと、大きく口をぱくぱくさせた。


バ、カ。


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