夏の空を仰ぐ花
「んなっ……バカとは何だー! 補欠のくせにー!」


左手をブンブン振り回すと、補欠はいつもの無表情に戻って、スポーツバッグをひょいと背負い直した。


そして、素っ気なく背中を向けて何事も無かったかのように、スタスタと歩いて行ってしまった。


「あ……」


行っちゃった。


つまらん。


ちえっ、と舌打ちをして肩をすくめた時、ワイシャツの胸ポケットで携帯電話がブルブル震えた。


「何さ……バイバーイとか。手くらい振れよ。素っ気なー」


ぶつくさ文句を言いながら、胸ポケットから携帯電話を取り出す。


「手振り返してくれるくらいいいじゃん。バチ当たらねーだろ」


去って行く補欠の背中を見つめながら、携帯電話を開く。


【新着メール 1件】


「お……おおお! ミラクル!」








9/14 15:45
From 夏井 響也
Sub
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恥ずかしいからやめろ
危ないからやめろ
心臓がもたない






「えっ……」


読むのを途中にして、あたしは窓から顔を出した。


でもやっぱり、そこにあったのはスタスタ歩いて行く後ろ姿だった。



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