夏の空を仰ぐ花
「心臓に悪いじゃん」


どちらからともなく、あたしたちは手を握っていた。


笑えてくる。


こんな時ですら素直になれない自分の可愛げの無さに呆れて、溜息も出て来ない。


嬉しい、来てくれてありがとう、なんでそんな事もあたしは言えないんだろう。


「……じゃなくて、本当はそんな事が言いたいんじゃなくて」


こんな大事な時に、補欠が来てくれたっていうのに。


「翠。泣くなよ」


補欠が、あたしの顔を覗き込んで来る。


「バカじゃないの。泣いてない」


なんで、あたしは素直になれないんだろう。


涙を流しながら睨むと補欠がやわらかく吹き出して、


「泣いてるじゃんか」


あたしの手を強く握り直した。


補欠は、いつもそう。


そうやって優しい瞳をして静かに、小さく小さく笑う。


目を半分にしてやわらかく笑って、あたしに大きな幸福をもたらす。


だから、あたしなりに精一杯素直になんなきゃ。


ほんとに冗談抜きに、愛想を尽かされるんじゃないかと恐ろしくなった。


「会いたかっただけだよ」


呟くと、補欠は目をキョトンとさせた。


「え?」


「ただ、とにかく、補欠に会いたかった」


本当は怖かった。


怖くて恐ろしくてたまらなかったの、あたし。


目が覚めた時、怖かった。


5日間も眠っていた事を知った時、背中がゾクゾクした。


相澤先輩と結衣と明里が来て、南高が勝ち進んでいて、今日が準決勝だって知った時が一番恐ろしかった。
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