夏の空を仰ぐ花
「目の前に見えてんのに、諦めるなんてできねえよ」
どうしても、諦めらんねえよ。
そう言った補欠は、熱い熱い、煮えたぎるような熱い目をしていた。
だから、あたしは何も言わずにそっと頷いた。
「ごめんな、翠。こんなのが彼氏で、ほんとごめんな」
申し訳なさそうに、補欠が深々と頭を下げてきた。
「けど、どうしても、おれは野球を捨てる事が出来ない」
あたしはもともと、補欠のこういう、嘘が付けなくて正直で純粋無垢なところに秘かに憧れていたのかもしれない。
「翠も野球も、どっちも絶対に捨てる事はできないし、片一方を選ぶこともできない」
あたしの彼氏は宇宙一だと思う。
「大切なんだ。翠も野球も」
この世にはびこる男の中で、最強にイケてると思う。
「フン、補欠エースめが。んなこた、最初から分かってる事だろうが」
「……え」
顔を上げた補欠に、あたしは得意のスペシャルイヤミー爆弾を投下した。
「本当に申し訳なく思ってんなら、さっさと優勝しやがれ。ったく、いつまで待たせる気か」
「ああ……うん。悪い」
「フン。あたしだって、無駄に寂しい思いしてきたわけじゃねえやい。だから」
言いかけたあたしの口にそっと手のひらでふたをして、補欠は言った。
「もし、優勝する事ができたら。その時は」
ドキドキした。
「その足でまっすぐ翠に会いに来るから、待ってて」
窓から暑い風が入って来て、カーテンが気球みたいに膨らんだ。
「ずっと言いたくて、けど言えなかった事、伝えに来るよ」
もう、梅雨明けが近いんじゃないかと思った。
「おれの事だけ、待ってて」
絶え間なく入って来てはカーテンをふくらませていた風が、パタリと止んだ。
補欠が微笑んだ直後の、夕凪ぎ。
風が絶えた空間に、ひぐらしの鳴き声がやけに鮮明に響いていた。
どうしても、諦めらんねえよ。
そう言った補欠は、熱い熱い、煮えたぎるような熱い目をしていた。
だから、あたしは何も言わずにそっと頷いた。
「ごめんな、翠。こんなのが彼氏で、ほんとごめんな」
申し訳なさそうに、補欠が深々と頭を下げてきた。
「けど、どうしても、おれは野球を捨てる事が出来ない」
あたしはもともと、補欠のこういう、嘘が付けなくて正直で純粋無垢なところに秘かに憧れていたのかもしれない。
「翠も野球も、どっちも絶対に捨てる事はできないし、片一方を選ぶこともできない」
あたしの彼氏は宇宙一だと思う。
「大切なんだ。翠も野球も」
この世にはびこる男の中で、最強にイケてると思う。
「フン、補欠エースめが。んなこた、最初から分かってる事だろうが」
「……え」
顔を上げた補欠に、あたしは得意のスペシャルイヤミー爆弾を投下した。
「本当に申し訳なく思ってんなら、さっさと優勝しやがれ。ったく、いつまで待たせる気か」
「ああ……うん。悪い」
「フン。あたしだって、無駄に寂しい思いしてきたわけじゃねえやい。だから」
言いかけたあたしの口にそっと手のひらでふたをして、補欠は言った。
「もし、優勝する事ができたら。その時は」
ドキドキした。
「その足でまっすぐ翠に会いに来るから、待ってて」
窓から暑い風が入って来て、カーテンが気球みたいに膨らんだ。
「ずっと言いたくて、けど言えなかった事、伝えに来るよ」
もう、梅雨明けが近いんじゃないかと思った。
「おれの事だけ、待ってて」
絶え間なく入って来てはカーテンをふくらませていた風が、パタリと止んだ。
補欠が微笑んだ直後の、夕凪ぎ。
風が絶えた空間に、ひぐらしの鳴き声がやけに鮮明に響いていた。