夏の空を仰ぐ花
涼子さんだった。


卒業してから彼女と会うのは初めてで、ほんの少し胸がチクリと痛んだ。


「あのね、翠ちゃん。私……ね」


涼子さんがすうーっと左手を青空にかざした。


白くて華奢な薬指にキラリと輝く物を見て、ドキッとした。


「結婚したんだよ。淳平とね、結婚したの」


別に驚いたりはしなかった。


「赤ちゃんがいるの」


そう言って、涼子さんはリングが輝いている左手で腹部にそっと触れた。


極端に驚いたりしなかったのは、心のどこかでそうなる日が来るかもしれないと思っていたからなのかもしれない。


そっか、とほほ笑んだあたしに、涼子さんが微笑み返してきた。


「翠ちゃんのおかげなの。翠ちゃんが居なかったら、私、こんな近くに幸せがあった事に気づかなかった」


本間先輩を見つめたあと、涼子さんが寄って来て、


「ありがとう」


あたしの正面にしゃがみ込んだ。


「ありがとう、翠ちゃん」


「別に。じゃあ、今、幸せなんだよね?」


あたしが聞くと、涼子さんはぽろりとひと粒の涙を流したあと、「とっても」と頷いた。


相変わらずだなと思う。


涼子さんは、泣き顔まで可憐で清楚だった。


「そっかあ。じゃあ……」


あたしは込み上げるものを堪えて微笑み、彼女の腹部にそーっと触れた。


まだ、ぺったんこのお腹。


だけど、じんわりと仄かなぬくもりを確かに感じた。


涼子さんの潤んだ瞳と目が合う。


「じゃあ、この子はハイパー幸せになれるね!」
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