夏の空を仰ぐ花
相澤先輩、若奈ちゃん。


結衣に明里に、あっこ。


本間先輩。


そして。


「涼子先輩」


「ね。だから、早く元気になって。前みたいに生意気な口きいて。翠ちゃん」


あたしは、贅沢者だ。


こんな跳ねっ返りでわがままで素直じゃないあたしにも、こんなに最高の先輩や友達がいてくれるのだ。


みんな、みんな、あたしの宝物だ。


「うん。覚悟しといてよ、涼子先輩」


もうじき、閉会式の幕が下りようとした時、相澤先輩の携帯電話に着信があった。


「翠ちゃん」


グラウンドを見つめるあたしに、先輩が携帯電話を差し出してきた。


「あたしに? 誰?」


「ファンキーな彼女から」


と先輩が可笑しそうに吹き出した。


二枚目俳優のような顔をくしゃくしゃにして。


「ファンキー?」


母だった。


「翠?」


その声は明らかに涙色に染まっていた。


「今ね、テレビ観てたのさ。すごいな、響ちゃん」


震えがちな母の声を聞きながら、グラウンドを見つめて頷いた。


「うん」


すごいってもんじゃないよ。


「お母さん、あのさあ」


「うん? 何だ?」


閉会式が終わったとたん、マウンドに南高校野球部がこぞって集まって行く。
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