夏の空を仰ぐ花
無人島でも、離島でも、樹海の中でも、どこでもいいよ。


「連れてってよ」


あたしと補欠しか存在しない、不思議の国へ。


「いつ、連れてってくれんの?」


あたしを、甲子園に連れて行ってくれたみたいに。


「早く連れてってよ」


唐突に、何の前触れもなく、なぜか涙があふれた。


「何……泣いてんだよ」


頬を伝う涙を指ですくい取って、補欠が表情を歪める。


「翠は、どこに行きたいんだよ」


「……カラオケ、ゲーセン、映画」


「うん」


「動物園」


「うん」


「海」


「うん」


「プラネタリウム」


「うん」


「……水族館」


行きたい所を次々に上げながら、あたしは泣いた。


その数だけ、補欠はやわらかく笑いながら、うんうんと頷いた。


なんてやさしい目を、補欠はしているんだろう。


「水族館か。おれも行ってみたいんだよね」


「でも……ほんとはどこでもいい」


カラオケもゲーセンも、映画も。


動物園もプラネタリウムも、水族館だってそう。


本当に、行き先はどこだっていい。


別に泣きたいわけでもないのに、涙が止まらなかった。


補欠へのスキがあふれて、ポロポロこぼれる。

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