夏の空を仰ぐ花

夏の空を仰ぐ花

季節は、冬になった。


年が明けて一か月が経ち、ニ月。


再発を告げられたのは、真冬にしては考えられないような青空の日だった。


「また、残っていた細胞が大きくなり始めています。再発です」


「……そっか。やっぱりな。あたしもそんな気はしてたんだよね」


だから、別にぎゃっと驚いたりはしなかった。


ただ、この現実を静かに受け入れるしかなかった。


「再発を察したのは、いつ頃?」


「先月の終わり」


「そう」


キイ、と椅子を半回転させて、長谷部先生が神妙な面持ちで話を持ち出した。


「これは、ひとつの方法なんだけど。どうでしょうか」


それは、東京行きの提案だった。


「こう何度も手術を繰り返して体に負担をかけるより、最新の設備が整った専門の病院で、全摘手術を受けてみませんか?」


長谷部先生の先輩で、脳腫瘍の手術を専門としている腕の確かな医師が、東京にいるらしい。


その病院に至急紹介状を出します、と長谷部先生が言った。


「……あ……でも……」


はい、ぜひ、とお願いするのが普通なのかもしれない。


でも、あたしにはそれができなかった。


「……でも、先生」


結衣、明里、花菜ちん。


健吾、それから、補欠。


どうしても、みんなと一緒に来月の卒業式を迎えて学び舎を巣立ちたい。


「来月、卒業式なんだ」


「うん、分かるよ。翠さんが踏み切れない気持ち」


「じゃあ」


「でもね、思ったより大きくなっていて進行が早い。このまま放置していたら、手遅れになる可能性も低くないんだ」


できる限り早い決断を、と長谷部先生は言った。
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