夏の空を仰ぐ花
先生の言っている事は分かるけど。
でも、やっぱり頷く事はできなかった。
不安の方が勝っていた。
手術の成功や失敗がどうこうよりも、補欠と離ればなれになってしまう事が何よりの不安要素だった。
「まいったぜよ……」
うつむくあたしの肩をポンと弾いたのは、微笑む母だった。
「好きなようにしろ」
「……へ」
「部分摘出でも、東京で全摘でも、お前の好きなようにしろ、翠」
ただ、と母は続けた。
「何でもいいから、生きてくれ。母はそれ以上の事は望まんよ」
吉田冴子。
この女にだけは叶わないと思った。
一生かかったとしても、母には勝てないんだろうな、って。
何でもいいから、生きてくれ。
母の言葉が胸に響いた。
ただでさえ女手ひとつで、あたしや茜や蒼太を育ててくれて、大変だってのに。
再発するたびにかかる費用で、家は火の車のはずなのに。
苦しい素振りひとつ見せない母に、申し訳なくて、ただただ頭が下がる。
「ねえ、先生」
「はい」
「その、先生の先輩のとこで全摘すれば、あたし完治すんの?」
「そうだなあ。9割がた完治の見込みがあるかな。翠さんの場合、幸い良性の髄膜腫だから、転移する病気ではないから」
長谷部先生が、話しながらレントゲン写真を見つめた。
「ただ、怖いのは、この腫瘍が一気に膨らんで脳や血管を圧迫してしまうこと」
「そっか……うん……分かった」
こくりと頷いて、あたしは母を見つめた。
「お母さん」
「何だ」
でも、やっぱり頷く事はできなかった。
不安の方が勝っていた。
手術の成功や失敗がどうこうよりも、補欠と離ればなれになってしまう事が何よりの不安要素だった。
「まいったぜよ……」
うつむくあたしの肩をポンと弾いたのは、微笑む母だった。
「好きなようにしろ」
「……へ」
「部分摘出でも、東京で全摘でも、お前の好きなようにしろ、翠」
ただ、と母は続けた。
「何でもいいから、生きてくれ。母はそれ以上の事は望まんよ」
吉田冴子。
この女にだけは叶わないと思った。
一生かかったとしても、母には勝てないんだろうな、って。
何でもいいから、生きてくれ。
母の言葉が胸に響いた。
ただでさえ女手ひとつで、あたしや茜や蒼太を育ててくれて、大変だってのに。
再発するたびにかかる費用で、家は火の車のはずなのに。
苦しい素振りひとつ見せない母に、申し訳なくて、ただただ頭が下がる。
「ねえ、先生」
「はい」
「その、先生の先輩のとこで全摘すれば、あたし完治すんの?」
「そうだなあ。9割がた完治の見込みがあるかな。翠さんの場合、幸い良性の髄膜腫だから、転移する病気ではないから」
長谷部先生が、話しながらレントゲン写真を見つめた。
「ただ、怖いのは、この腫瘍が一気に膨らんで脳や血管を圧迫してしまうこと」
「そっか……うん……分かった」
こくりと頷いて、あたしは母を見つめた。
「お母さん」
「何だ」