夏の空を仰ぐ花
思わず、声を上げそうになった。


「一発で……?」


背中がゾクッとした。


「ですから、常に爆弾を抱えているという事を自覚してください」


「うん、分かった……分かったよ」


あたしは震える手をぎゅうっと握りしめた。


卒業したら、東京に行こう。


それで、完治して戻ってくるんだ。


その事を、ちゃんと補欠に伝えなきゃ。


診察室の窓に、氷の結晶がくっきりとはり付いていた。


でも、確かに外は晴れていて、夏のを思わせるような澄んだ青空がどこまでも広がっていた。


なんだってんだよ。


「また、再発しちった」


人生はうまくいかない事だらけだ。


人生は、深い霧の中。


だけど、いつかこの霧が晴れて輝かしい未来が来る事を、あたしは信じてやまなかったんだ。















雲ひとつない青空にちらつく雪片。


どこか遠い地から流されて来た、花風。


冬空に昇る寒々とした煙。


その日、あたしは漠然とした何とも言い表しようのない夢を見た。


冬霞の中、あたしはそこにぽつりとたたずみ、片手に黄色の花を一輪持って上空一点を見つめているのだ。


自分が何を着てどんな靴を履いていたのかは、全く覚えていない。


ただ、冬霞の中なのに小春日和の中のようにほこほこと温かかったのを覚えている。

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