夏の空を仰ぐ花
「あたっ」


この金髪フリョー娘、と結衣があたしの額をペンと叩いた。


「昨日、正門の前で翠のこと待ってたら、チャリで来てさ。けど、またすぐどっか行ったへんな男!」


あいつだよ。


あの坊主頭。


間違いねえよ、と結衣はもう一度指差した。


「嘘。てか、それ、シルバーのチャリだったか?」


あたしの異様なまでの食い付き方に、


「えっ、たっ……確か」


と結衣はびっくり顔でこくりと頷いた。


体に電流が流れる。


もしかして……。


これは、もしかすると。


あたしはがっしりと結衣の肩に飛びついた。


「確かじゃ困る! しっかりせい、結衣! 思い出せ」


結衣の華奢な肩をぎっちり掴んで、あたしはぐらぐらと揺すった。


「ゆーいー!」


「うああああ……」


もしも。


この世に「もしも」なんてそんな都合のいいことは起きない。


だけど、もしも。


昨日、誰も居ないグラウンドで空を仰いでいた人間が、もし“キョウヤ”だったら。


あたし……。


もしも、が、もしかすると、が。


もしかするかもしれない。



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