夏の空を仰ぐ花
ウンメー?、と思いっきり首を傾げた結衣を無視して、あたしは掲示板に視線を戻した。


掲示物に穴が空いてしまうかもしれないくらい、見つめまくった。


さっき、ケンゴが言っていた名前を探す。


キョウヤ。


キョウヤ……。


【田口 恵介】


「きょう……や」


【土田 元】


【夏井 響也】


「響……也……?」


たぶん、あたしはもう、昨日の時点で吸い込まれてしまったんだ。


【夏井 響也】


あの、瞳の奥に。


「夏井、響也」


すぐにその背中を探したけど、その時はもうどこにも無かった。


ひとだかりの向こうを見つめながら、呆然と立ち尽くす。


あたしはたぶん、そんなにバカじゃない。


やっぱり、間違いないんだと思う。


あの、静かな空気を漂わせる横顔。


優しい光を放つ、真っ直ぐな瞳。


携帯電話を投げた、あの腕。


左利きだった。


バラバラに散らばったジグソーパズル。


最後の1ピースが、かちりとはまって完成した。


昨日のあいつだと確信するまで、少し時間をくってしまった。


私服じゃなくて学ランだったからなのかもしれない。


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