夏の空を仰ぐ花
「夏井のどこがそんなにいいのかねえ」


あたしにゃ分からん、結衣が笑うと、窓辺にますますもたれて明里が頷いた。


「ほんとほんと」


あたしはバアンと机を叩いた。


「何で! 何で分かんないのさ!」


机の上でポッキーの空箱がカエルみたいにジャンプした。


「だって、野球バカのハゲじゃん」


ブハハと吹き出した結衣のあとに、すかさず明里が食いつく。


「無愛想だし、無口だし。何考えてんのかさっぱり分からんし」


「オーマイガッ!」


なんてこった。


「ぐはあーっ」


あたしは、毎朝20分も費やしてセットしている巻き髪を、ぐしゃぐしゃに掻き乱して悶えた。


「オーソレミーヨ! スパゲッティー! ナポリターン! オマエラ、ワーカッテネーヨ!」


なんとなく異国語っぽく聞こえる単語を適当に並べて、叫んだ。


「ナポレオーン! ラザニーア! パイナポー! エーンド、ミソスープ!」


なんてこった。


山姥並みに乱れた頭を抱えてぐああーっと悶えるあたしに、明里がすかさず突っ込む。


「ミソスープって何よ」


そんなことも知らんのか。


進学校の生徒のくせに。


まったく、最近の若者は。


けしからん!


「ミソスープは、味噌の汁だ!」


とあたしは山姥頭のまま椅子にもたれかかった。



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