夏の空を仰ぐ花
「そもそもだよ。一度決まった事をおれたちが勝手に交代したりしなら、にべちゃんが何て言うか」


「んだよ! ぐだぐだうるせーな! 男だろ、大輔」


明里が詰め寄ると、普段は大人しくて内気なはずのあっこまで飛び出した。


「にべちゃんには、クラス委員長の私が話つけるから。ね、大輔くん。私からもお願い!」


あっこのお願いポーズに「うっ」と言葉を詰まらせながらも、大輔はガンとして首を縦に振ろうとしない。


「いやいや。ちょっと待ってよ。けどさ」


大輔が必死なのは分かる。


だけど、あたしはもっと必死だった。


「大輔!」


「はいっ!」


ビクーッと直立した大輔の前に立ったあたしは、


「大輔……くん。いや、さん」


その足元にひざまづいた。


大輔が間抜けな声を出した。


「へ……翠?」


神様。


仏様。


大輔様。


お願いします。


もう、大輔しかいない。


今は、この男だけが頼みの綱だ。


あんたは、希望の光だ。


正座をしたまま、あたしは天井を仰ぐように両手を広げた。


「うげ!」


ギョッとする大輔。



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