夏の空を仰ぐ花
「補欠、命」


交渉成立だ。


まさか、こんな近場に恋の神様がいたとは。


恋の神様はあたしに微笑みながら、こう言った。


「代わってやるんだから、絶対に負けんなよ」


「は?」


「何だっけ。さっきの岩瀬っていう女にだよ。絶対、響也のこと振り向かせてみせろ」


な、と大輔があたしの肩をバンと叩いた。


ほら、みろ。


これがオープンマイハート効果だ。


隠していたら、こんなこと絶対に有り得なかったことだ。


みんなの優しさが、身にしみた。


「みんな!」


あたしは一歩後退して、みんなに頭を下げた。


「まじでありがとう!」


ありがとうなんかじゃ、全然、足りないけど。


あたしは深く深く、頭を下げた。


あっこが鞄を掴んだ。


「私、交代のことにべちゃんに報告して帰るね」


また明日ね、とあっこが教室を飛び出して行った。


「良かったな、翠」


恋の救世主1号、明里が言い、


「こんないい同級生、他にはいねーぞ」


恋の救世主2号、結衣が笑う。


一件落着、とばかりにぞろぞろとみんなが教室を出て行く中、去り際に光貴が話し掛けてきた。



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