3月1日【短編/企】
「……選ぶのに随分時間かかってさ。同僚の女の子にも色々見立ててもらってたんだけど、なかなかいいのがなくて」
その箱を受け取って私はゆっくりとそれを開いた。
……浮気なんかじゃ、なかった。
帰りが遅かったのも、女の子と歩いていたのも――全部。
「紅子。俺と、結婚してくれないか?」
光り輝く指輪を見つめたまま、私は涙を流す。
「………はい」
震えた声で、返事をすると
啓一は愛しげに私を引き寄せ、力強く抱きしめた。
「……ずっと、好きだった。
初めて出会った10年前から、ずっと」
その言葉に顔を上げる。
そこには、誰よりも愛しい啓一の瞳があって。
それを閉じ込めるように私はゆっくりと瞳を閉じた。
END.