3月1日【短編/企】
そう言われて顔を上げ、目の前の彼女に声を失った。
「そ……その髪…」
かろうじて声を出すも
後が続かない。
「……?啓一?
どうしたの、具合悪い?」
「え……あ、いや…」
(………あの日の彼女だ)
手で口元を押さえ、
速まる動悸を
必死に抑えようとする。
尚も心配そうに見つめてくる紅子を脇に押しやって、俺は軽く息をつく。
「だ……大丈夫、だから。
心配しないで」
そして笑顔を作って彼女を見た。
「そう……?
ならいいんだけど」