原石のシンデレラ

｢父さん。僕、いつもの珈琲ね｣

｢ーはいよ。…お嬢さんは、どれにしますかな｣


｢えっと…お、ｵﾚﾝｼﾞｼﾞｭｰｽで。｣

ハッと我に返った私は、ﾒﾆｭｰ表で適当に目についた物を口にした。


｢ー珈琲と、ｵﾚﾝｼﾞｼﾞｭｰｽだね。｣

そう呟いて奥の部屋へと入って行き、ﾏｽﾀｰの姿が居なくなると、

｢ーーーあの部屋はね、厨房に繋がっているんだよ。……、この裏口側が、僕の家の玄関になっているんだよ。｣店長が聞いてもいないのに勝手に説明し始める。


｢そ、そうなんですか。ーーあ、あの……てんちょ……｣


言葉を途中で遮るように、店長は雪詩の唇に、人差し指を押し当てて、｢ーー僕のことは、仕事以外では…広戸(ﾋﾛﾄ)って呼んでね｣


｢……は、はい。広戸さん｣


広戸が嬉しそうに微笑むのを見て、雪詩は何も言えなくなる。