黒猫劇場
「あたしは、」リグが声を発した。それに僕が反応する。「やっと、綱渡りを決心したの。いままでは綱から降りたくて、ヴァージナルが羨ましかった」

「え、ぼく?」

「そう。何でも出来るのに、どうしてこの子は探偵に憬れるんだろう、って。変わってくれたらいいのに、って思ってた」

 そうか。
 だから初めて出会った頃のリグは僕に対して笑顔なんか見せなかった。

「でも、楽しかったから。ヴァージナルと先生と三人で勉強するの」

 その頃のことを思い出したのか、片手を口許に当てて、本当にうれしそうに笑った。
 その時間は僕にとっても、貴重なものだった。常に早口で芝居口調の先生の授業は面白かったし、なによりリグという友達が出来たのだから。
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