黒猫劇場
 僕は人込みを上手くすり抜け、急いで近道の小径に入った。

 赤茶けた煉瓦畳。

 その先の入り組んだ狭い路地裏に入る。
 半分はたたまれてしまったが、お店の玄関口が至る所で僕に顔を向ける。

 花屋、洋菓子屋、酒屋。

 そして――、探偵社。

 路地裏の先の細い階段の側で人影が見えた。派手なかつらで分かった。
 探偵社のアレグロ氏だ。

 彼によると、探偵の技量はかつらが全てらしい。そのせいで、毎日見たことの無いかつらを被っては、みんなを驚かせている。

 アレグロ氏の家系は代々探偵で、かなり腕利きが揃っている。いまも遠い町の大金持ちの屋敷の専属探偵を務めているらしい。
 ただ、容姿があまりに浮世離れしているため、みんなからは煙たがられる存在だ。

 学校に入る前、僕がアレグロ氏に弟子入りしたいとママに申し出たら、真っ赤な顔をして反対されてしまった。

 仕方なく、いまは内緒でアレグロ氏のもとへ通い探偵指南を受けている。
< 7 / 25 >

この作品をシェア

pagetop