アイデンティティ
 窓の外では空が淀んで汚い土地を洗い流している。
電信柱の頂上でカラスが一羽。羽ばたいて、目の前の木の枝へ雨宿り。

「あ…」

目の前で蝉が飛んだとき、嘴に捕らわれ、たんぱく質に変わった瞬間。
「ふふっ」
世の中は残酷。一瞬過ぎる出来事を、その紛れもない事実を目撃した子供は耐え切れず嗤った。
1週間の猶予さえ与えられぬ、弱肉強食。抗えぬ生態の食物連鎖。
周りが何をしているとか関係はない。前に倣えの時代にも関係非ず。
蝉の声、耳に届かず。子供は窓の外の蝉に向けて掌を合わせた。
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