クローゼットチャイルド
半分開けた遮光カーテン。
全て開けて、施錠を開けて外の空気を取り込んだ。
ふわりとカーテンは空気に仰がれて、隔離されていた世界がすぐに解放されていく不思議な錯覚。
外の香りはどこか懐かしくもあり、遠くで響く鐘の音が時を告げていた。
「近くに学校でもあるのか?」
「さぁー。あるらしいけどわかんない。」
「今何時?此処、時計が全部めちゃくちゃだ。」
「携帯でも見れば?」
「普段何見て時間確認してるんだよ?」
「テレビか携帯。」
心底呆れたように、そうかよ、と呟いて彼は自分の携帯を確認した。
「時間に捕らわれるのが嫌いなんだ。」
流れる空気は少しだけ、冷たくて心地よい。
空は光に照らされていないのに蒼く、雲一つなかった。
「それ、なんのお香?」
未だ揺らぐ煙は柔らかな香を纏っている。
残り短くなった紫の棒は、ゆっくり灰を落とした。
「さぁ?忘れた。」
「なんで?」
「気に入った香を買っては、その中に入れちゃうから名前なんて覚えてないからね。」
白い箱の中にいくつもの香が入っているがそれは黄色や緑や、赤や紫、それは多種多様の色が混ざっていた。
「この前、桜の香がお気に入りって言ってなかったか?」
「…そうだっけ?」
「どれだよ?」
「わかんないって。でも、たぶん…それはもうないよ。」
いつ言ったことかも覚えていない。当人が覚えてもいないことを人は急に言い出す。
繰り出す言葉はいつのことかもわからないのに、何のために人は尋ねるの。
白い箱の中に無差別に入ったお香を一つ一つ確認している人は、きっとその桜を探している。
でも、それを告げた当人は…きっとここに居ない。
「この赤いのとか…?」
「つけてみたら?」
言われたとおりに香に火を点けて香炉に立てた。紫の香はすでにただの灰。
「……桜?」
「…違うと思う。見た目じゃないよ、香は。色なんて後からでもつけられるんだから。」
「早く言えよ。」
全て開けて、施錠を開けて外の空気を取り込んだ。
ふわりとカーテンは空気に仰がれて、隔離されていた世界がすぐに解放されていく不思議な錯覚。
外の香りはどこか懐かしくもあり、遠くで響く鐘の音が時を告げていた。
「近くに学校でもあるのか?」
「さぁー。あるらしいけどわかんない。」
「今何時?此処、時計が全部めちゃくちゃだ。」
「携帯でも見れば?」
「普段何見て時間確認してるんだよ?」
「テレビか携帯。」
心底呆れたように、そうかよ、と呟いて彼は自分の携帯を確認した。
「時間に捕らわれるのが嫌いなんだ。」
流れる空気は少しだけ、冷たくて心地よい。
空は光に照らされていないのに蒼く、雲一つなかった。
「それ、なんのお香?」
未だ揺らぐ煙は柔らかな香を纏っている。
残り短くなった紫の棒は、ゆっくり灰を落とした。
「さぁ?忘れた。」
「なんで?」
「気に入った香を買っては、その中に入れちゃうから名前なんて覚えてないからね。」
白い箱の中にいくつもの香が入っているがそれは黄色や緑や、赤や紫、それは多種多様の色が混ざっていた。
「この前、桜の香がお気に入りって言ってなかったか?」
「…そうだっけ?」
「どれだよ?」
「わかんないって。でも、たぶん…それはもうないよ。」
いつ言ったことかも覚えていない。当人が覚えてもいないことを人は急に言い出す。
繰り出す言葉はいつのことかもわからないのに、何のために人は尋ねるの。
白い箱の中に無差別に入ったお香を一つ一つ確認している人は、きっとその桜を探している。
でも、それを告げた当人は…きっとここに居ない。
「この赤いのとか…?」
「つけてみたら?」
言われたとおりに香に火を点けて香炉に立てた。紫の香はすでにただの灰。
「……桜?」
「…違うと思う。見た目じゃないよ、香は。色なんて後からでもつけられるんだから。」
「早く言えよ。」