クローゼットチャイルド
赤い香は白い煙となって、宙を仰いで消えて、香りが無言で広がっていく。
「煙は全部おんなじ色なんだな。」
不意に呟かれた言葉。その先は天井に溶けるそれ。
「…気持ち悪いでしょ。それ…赤いの出るの?何?そのヤバい感じ。」
思わず笑ってしまった。
「別に変な意味じゃねぇーし。」
「いや、知らないけど。紫とか緑とか…?」
言いながら再び笑ってしまって、失礼だと思い急いで彼に背を向けた。
そしたら、あの世界も色が付くのかもね。
「何だよ。」
息苦しくて仕方がない、あの空間は薄暗いせいかもしれない。
モノクロの世界に自分の眼だけに色が付いた世界。
「いつまでも笑ってんじゃねぇーよ。」
「笑ってないよ。」
振り返って、初めて椅子に座った。
彼と向かい合って、その眼を見た。
「ねぇ、何色だった?」
「あ?」
「目を閉じてイメージした世界。」
その言葉だけで、彼は視線が下へ向けられて冷えたミルクティー。
「暗くて、色はわからない。…その中は温度がないって言われているのに触れたそれは温度のある手に感じた。すごく冷たい。」
小さな溜息の後に冷たいミルクティーを飲み干した彼は、空っぽのティーカップを差し出してきた。
「おかわり。あったかいのがいい。できたらレモンティー。」
「……注文多すぎ。」
思わず笑って、席を立ちそのティーカップを手に取った時に冷たい手が手首をしっかりとつかんだ。
思わず吐き気を催すいやな感覚。
「あんたが言わない代わりに言う。我儘だよ。」
「……おんなじ温度だ。」
「は?」
「…掴む温度とおんなじだ。」
「………」
「レモンティーに砂糖はいる?」
無言を振り切った質問に返答はなかった。
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