辻斬り
「こんな霧の中じゃ絶対に車は出せない」
「いいからこんなところ一分一秒も居たくないから早く出せって言ってんの! こんなところでもし死んだりとかしたら、それこそ化けて出てやるから」

めぐみは喚いた。遺留品となった美保のフリーズした携帯を手にしたまま。

携帯の液晶は明々と付いたままで、「/」の文字の無機質さが、ただならぬ恐怖をさらに助長した。

「車を運転して霧に視界取られてうっかり崖に落ちたら全員自縛霊に成り下がりだ」

深い霧に包まれて、それでも町に戻りたいと訴えるめぐみたちと頑として霧が晴れない限り車は出せないと突っぱねる鴻上との言い争いはしばらく続いた。

「――朝になっても霧が晴れない可能性はあるぞ」

灘はぼやくように言った。

「ジジイ、どういうことよ」


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