辻斬り
霧の端切れから見えたその顔は、理人と、まなみのものだった。
危機を感じすぐに逃げ出そうとした。飛び出そうとして右手に地面をつけたとき、力強いものにその手を握られ捕らえられてしまった。
振りほどこうとするが、強く締め付けられ右手の感覚は見る見る失っていく。
「いや、お母さん!」
えみは視線を感じた。振り返ると黒いものにじっと見られている。
フードに覆われていて顔はまるで見えず、またその荒い息使いがめぐみの身に沁みた恐怖をさらに助長させた。
逃げ出そうと足をばたばたとするが、逃げおおせない。
えみは左手でポケットを探り携帯電話を取り出した。
片手でボタンを押し電話をかける。
通じて、通じて――繰り返し願い。
黒いものは、それを楽しむかのようにじっと見る。
無言のたたずまいが、いずれ来る死を暗示し、それを強迫する。
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