辻斬り
えみは無我夢中で叫んだ。
「通じない……お母さん、助けて、助けてっ!」
断末魔は周囲に届いただろうか?
黒いものはついにめぐみの胸元を刃物で貫く。
まるで小太刀のようなもので胸を貫かれ、めぐみは叫ぶ声を失う。
ザシュッ、ザシュッと繰り返し繰り返し。聞こえるのは刺し貫く音だけ。
血はとめどなく流れ、芯の通った痛みにめぐみは呆然としながら涙を流す。
声はもうなく、死の路傍に佇むしかなかった。
わたし……。
それ以上浮かぶものはなかった。
懇願した母の声は届かず、命途切れる間際まで握られていたえみの携帯にはスラッシュメールが届いていた。そしてその体はいずこかへと消えていく。
行く先は、湖がある。
響いた滴りの音は、果たしてどちらの音かは分からない。

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