辻斬り
「ほかの誰かを疑う、というより本当に何かいることを真剣に考えた方が良いようだな」
「赤田の仕業だというのか?」
「……」
沈黙を決め込む鴻上を敬遠するように紀伊はまた廃屋の中へ。
鴻上は残ったあゆみに告げる。
「もしもこの山の中に、兵吉の呪いのほかに、赤田がいるのなら、俺は戦わなければならない」
「どうして?」
「ここに来ると聞いたとき娘が呼んでる気がした。うずくんだよ、あの時死んだ娘を抱いたこの手が、どうしても」
「何のつながりがあるというの、この村と、あなたの娘と?」
「わからない、この霧はまるで無数の魂の群れのように感じる。その中に俺の娘の魂も紛れている気がして――」
「気のせいよ、そんなの」
あゆみの言葉に鴻上は「そうじゃない」と繰り返す。
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