辻斬り
菜生子は鴻上を見るや、固執するような目で彼を呪うように言い訳をする。
「だって、あなたは事件事件とかこつけて、ちっとも家に帰ってきてくれない。寂しかったのよ。こうやって抱っこしてね、泣きぐずるゆりの声を聞いてたら、ほら、ゆりもっとお父さんに聞こえるように泣いてごらん、てね、やっていたら――帰ってくるかなって思ってた。だからもっといっぱい泣いてお父さん呼ばなくちゃ、もっと、もっと、泣けばいいのに、あんたが怪我したら、ずっと家にいてくれるって……」
「そんな馬鹿なことを――」
菜生子は机を叩いてわめく。
「あなただって、あの子を殺した。家に帰ってこなかった、あなたも悪いのよ!」

今へとゆり戻り鴻上は言う。
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