辻斬り
「僕の大切なものは、仕事か、家庭か――果たしてなんだったのだろうな。外に出て、目の前に広がる真っ白い霧に、全部うやむやに隠したいとさえ願った。事件の後、僕は警察を辞め、妻の帰りを待つことにした」
「離婚、していないの?」
鴻上は静かにうなずく。
「妻の帰りを待ち、もう一度やり直すこと、逃げないことが僕の使命だ。あの時この手で捕まえられなかった赤田を再び逮捕へと追い込むのも、この僕の」
「そりゃどうだか」
森の奥から現れた灘が嫌味げに口を挟む。
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