辻斬り
吐く吐息に誘われるようにまた増えていく影が、ひとつ、ふたつ、みっつ。

(灰色の服は……いったい誰だ?)

見慣れない服のものもいた。紀伊はこの廃村の地理事情を振り返る。
(山ひとつ向こうは刑務所……脱走者は絶え間ない……いや、脱走者じゃなく、最悪囚人が皆この霧の被害者とも考えたら……)
果たして何人いるのか皆目掴めない。
ただここにいる自分たちは明らかに標的で、襲われていくしかないのだと、それは自覚できた。
ああはなりたくない、紀伊は脅えた。
「そんな、こんなことが、こんな……」
こんなことは考えても見なかった。
怪奇事件にすべてをなすりつけ、復讐を果たしてやるつもりが、この怪奇に弄ばれている、情けない顛末。
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