辻斬り
「嘘だ、こんなところで……僕は仇を……」
めぐみやまなみもいつの間にか現れ、紀伊を追い続ける。
紀伊はひたすら逃げ惑いながら叫んだ。
「それが、それがあなたの答えかっ!」
浅瀬を超え、対岸まで逃げおおせ、それでも追いかけてくるそれになす術がないまま逃げる。解決のない道のり、抗えないことに逃げ惑うしかない自分自身を、彼は最後に呪い、抗うべきだっただろう。
とうとう追い詰められると、紀伊は肩をしっかり掴まれその胸倉を何度も刺し貫かれる。際限なく、何度も。
刺し貫くその音だけが白い霧の中ではっきりと残った。
いや、白いと言うには及ばぬもの。
その霧、やがて桃色になってしばらく漂った。
また無味な白に戻った頃、刺す音は止んだ。

――馬鹿ね。恨んだところで更なる恨みしか残らないのに……

彼方から、聞こえた気がした。
声が沸き上がる毎、あたりは白く霧深く揺らいでいく。

居並ぶものは、懺悔なのか、それとも?
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