辻斬り

午前五時。

夜が白みだす頃がまさに恐怖の絶頂だった。
長い槍のような影が見え、誰かが何かを刺し貫く光景が見える。
真っ白い霧に浮かぶ、無数の黒い影。影は槍や鍬のような何かを持ち、ザシザシと地面を突き刺しながら獲物を求め歩いている。
リーン、リーンと鈴虫の音が響く。
その音色、この世の音とは思えぬ、いわば無機質に包まれていた。
赤田や霧の鬼に追い回されながら墓場まで転がり込んでいった鴻上とあゆみはその墓の数におののく。
狂気の声の数に圧倒され、あゆみは精神に異常を来たしていく。
歯を震わせてカリカリカリカリ…と命を刻々と削るように音を立てていた。
「てめえの家の墓ぐらい、ちゃんと覚えておかなきゃな。生まれてきておいて一番の恥だ……」
あゆみの震えが収まったのはその声を思い出したときだった。