辻斬り
「みんな思うんだよぉ。抗えない絶望ぉを前にしてぇ。なんて無力なんだってなぁ」
(ああ、そうだ。僕はなんて、無力なんだ……)
あきらめた。
あきらめなければ次の生は始まらない。
何もかも捨て、楽になろう、湖に身を投げ出そうとした――その刹那、まるで鬼がうめくかのように雷鳴が響く。
一閃、その一言に尽きる一撃だった。
雷鳴は赤田の体を貫き、瞬く間に立ち消えた。
赤田は背中をばっくりと裂かれ、膝を崩したまま絶命していた。
雷を受けたその身からは黒い煙が燻り、ぶすぶすと音を立てる。
峰中に広がった幾層にも重なる分厚い霧は急風に乗って音を立てて空へ舞い上がると雨となって峰中に降り注ぐ。
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