辻斬り


「――それがこの話のすべて?」
静かにうなずくのを見届け、記者は吸っていたタバコを灰皿に置く。
紫煙は霧のように弛む。
閑静なビル街にある、昔懐かしい佇まいの喫茶店。
あゆみはそこで、週刊誌の記者に今回の顛末を話していた。
事件の後、彼女は大学を辞め、正体を隠すように引越しをした。
人材派遣会社に早々に登録を済ませ、寮に入ることを条件に工場勤務を選んだ。
カメラを組み立て、寮に帰って一人で過ごす。干渉されない生活が、当たり前になってきた。
ただあの時のことだけはきちんと話してけじめをつけておきたかったのも心のどこかに引っ掛かりがあった。


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