勇者様と従者さま。
 エヴァは宣言通り、口を開かずに成り行きを見ていた。

 穏やかな笑みを浮かべ、落ち着いた口調で話すアーサーは、見るからに理想的な騎士である。

 むしろ一般的に見て明らかに勇者らしいのはエヴァよりアーサーだろう。

 なぜか落ち込んでしまう。


 その時、視界の隅を白いものがちらついた。

 エヴァがそちらに目を向けると、さっき聖堂の外で見た子供が立っていた。

 薄暗い中なのに、妙にくっきりと見える。


 子供が顔をあげた。目が合った。

 はがねのような、銀の瞳だった。

 次の瞬間、子供は身を翻した。

「あ…待って!」

 なぜか追わなくてはならない気がして、エヴァは駆け出した。


 驚いたのはアーサーである。

 大人しくしているかと思ったエヴァが急に走り出したのだ。

「エヴァ様!?おい!」

 ステファンに詫びると、アーサーもエヴァを追った。



 聖堂の中に入れば入るほど暗くなるというのに、前を行く白い背中はくっきりと見えつづけている。

 子供の足は速かった。

 そんなに走るのが得意ではないエヴァは、すでに息があがりはじめていた。


「ま、待って…!ねぇっ」

 ある部屋の前まできたとき、子供は足を止めた。

「え…?」

 振り向く子供。

 その唇が動いた…

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