勇者様と従者さま。

わたしは勇者です!

 子供は滑るように進んでいく。

 比喩ではない。実際足音がしなかった。

 ただエヴァの足音だけがぺたぺたと響いている。

 石の床は冷たく、裸足の足が冷える。靴を履かなかったことを後悔したが仕方ない。

 やがて子供は立ち止まる。

「…ここは、夕方来た…」

 頷く子供。そのまま部屋の中に入っていく。

 エヴァも続いた。

 途端に息を呑む。


「な、なに…これ…」

 部屋の中央に、鞘に入った剣が飾られていた。

 こしらえは華美ではないが美しい。思わず目を奪われるような剣だった。

 どういうわけか、剣自体が発光しているようで、部屋は淡い光に包まれていた。

 それは、まだいい。


 しかし、部屋全体に飛び散った赤黒い染みは。

 まるで…血痕。

 エヴァの膝が震え出す。

 子供は初めて言葉を発した。

 幼い見かけに似合わない、しわがれた声だ。

「使え」

 一言だけ。それだけだった。

 子供の輪郭が曖昧になり、だんだんと薄れていく。

「…え?どういうこと?つ、使えって、その剣?」

「我を呼べ。我が名はシュリ」

 それを最後に、子供の姿が完全に掻き消えた。

 剣がひときわ強く光りだす。

「待って…シュリ?シュリ!?」

 呼んでみるがしかし何も起こらない。

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