勇者様と従者さま。
 後ずさりを続けていた足が、何かに当たった。

 エヴァはバランスを崩す。

 その様子を見て、ステファンがくつくつと笑った。

 最早穏和な司祭の面影はない。


「勇者などといっても所詮はお飾りだな」

 とがった左手で顔をつかまれた。

 微かな痛みが走る。皮膚が切れたようだ。

「あの従者のほうがよほど怖い。だが生かしてはおけないからな。…死ね」

「い、嫌です…」

「命乞いか?勇者様ともあろうものが」

「いいえ!!」

 エヴァは後先も考えずに叫んだ。


「わたしは勇者です!あなたなんかには屈しませんし殺されもしませんっ!!」


 無意識に周りを探っていた手に何かが触れた。

 エヴァは躊躇うことなくそれを掴む。

 剣の柄。部屋の中央に飾られていたあの剣だ。

 掴んだ部分が熱くなる。どくん、と脈打つ。

 その瞬間、エヴァはすべてを悟った。

 剣を抜き放つ。

 白銀に輝く剣身は、刺突剣の形をしていた。


「まさか!それを抜けるはずが…!!」

 ステファンが慌てて身を引く。

 エヴァは体勢を立て直した。

「…邪悪なものには抜けません」


 すっ、と息を吸って、

「シュリ!力を貸してくださいっ!」

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