勇者様と従者さま。
 シュリは建国のころ生まれた。

 誰に鍛えられた剣でもない。シュリは、剣の聖霊だった。

 ある時おもしろい若者に出会った。シュリは彼と意気投合して、彼の護りになった。

 やがて若者は当時人々を苦しめていた魔物を討って、国の統合の礎を築いた。人々は彼を勇者と呼んだ。

 しかし彼は、魔物から受けた傷が原因で亡くなってしまう。

 すぐに、友を失い呆然とするシュリを巡って争いが起こった。

 勇者の聖剣を欲する人間は多かったのだ。

 シュリは絶望した。

 そして、長く眠ることにした。

 地下深くに剣身を横たえ、シュリはひっそりと眠りについた。


 …どれほどの時間が経っただろうか。

 この地に聖堂を建てようと地面を均しているときに、偶然シュリは掘り出された。

 そのときの司祭の判断によって、シュリは公にはされず、この聖堂に保管されてきた。

 地下で眠るのと変わらぬ平和な日々が続いた。

 ところがあるとき、司祭ステファンが魔物に取り憑かれた。

 魔物は目障りなシュリを潰そうとしていた。

 だがシュリは曲がりなりにも聖剣である。

 よこしまな魔物には触れさせなかった。

 部屋の血痕の殆どは、シュリに触れようとした魔物が流した血である。

 魔物はその間にも消耗した力を得るために村人を次々喰らい、下位の魔物に近隣の村を荒らさせた。

 もちろん、<悲しみにくれる司祭>を疑う者はいなかった。

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