勇者様と従者さま。
1*はじまり、はじまり

旅に出ましょう、従者さま!

 …魔物が増えた。

 魔王が現れたらしい。

 ということが問題なのではなく…いや、国民が安心して出歩けないのは問題だが、魔王が現れるなど20年に一度は起こることで大騒ぎするほどでもない…前のように勇者を選んで討伐に向かわせればいいだけだ。

 問題は、とアーサー=ゴールドスミスは眉間に皺を寄せた。

 問題は、代々勇者を輩出してきた名門であるゴールドスミス家次期当主であるこの自分が勇者に選ばれなかったことであって。

 しかも、今回の勇者は一介の平民、それも女ときている。

 女の勇者なんて前代未聞だ。

 ゴールドスミスの人間が選ばれなかったこと自体珍しい。

 …恥だ。一家の恥だ。

 ゴールドスミス家の誇りを傷つけてしまった。

 神託だかなんだか知らないが、神殿も空気を読んでくれ。

 有事のときは自分がゴールドスミス家の騎士としてこの国を護ろうと鍛練を積んできたのだ。

 申し訳なくて家族に合わせる顔がない。

 …いや、さっき合わせたのだが。

 ご丁寧に部屋まで笑いものにしにきた姉上は悪魔だ。いやむしろ魔王かもしれない。


 だというのに。

 だというのに!

 こともあろうにその勇者当人が彼を訪ねてきたというのである。

 なんと無神経な!

 しかし勇者の来訪を無視するわけにはいかない。

 この国では勇者は大変に尊ばれるのだ。

 こちらが貴族、向こうが平民としてもだ。


 アーサーはひとつ溜め息をついて立ち上がった。

 背中でひと括りにした栗色の髪が揺れる。

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