勇者様と従者さま。

わあ、お綺麗なかたですねえ!

 朝が来た。

 アーサーはいつも通り鍛練をしようと庭に出た。

 いい天気だ、と伸びをした瞬間、ぎょっとした。

 誰もいないはずの村を、馬車が通ってくる。

 それもただの馬車ではない。

 神殿の紋章の入った、貴人が乗るような仰々しい馬車である。

 前後には大勢の護衛を伴っていた。

(なんだあれは…!)

 アーサーはしばし硬直したまま成り行きを見守った。


 やがて、馬車が聖堂の真ん前…つまりはアーサーの目前に止まった。

 護衛の中からひとり、最も位の高そうな者が進みでてくる。

「勇者エヴァどのはいらっしゃるか。これなるは…」

「面倒臭いわあ。降ろして頂戴。酔ったの」

 その言葉を遮ったのは若い女の声。

 馬車の中からだ。

 幼いような艶やかなような、不思議な声だ。

「…はっ!只今」

 護衛たちが慌てて足置きや日傘を準備する。

 相当身分が高そうだ。

 そして、馬車の扉が開く。


「うーん、いい天気だこと」

 彼女は開口一番そう言った。

 何枚も重ねた衣装をものともせず、軽やかに馬車から降りて、まだ動けずにいるアーサーのもとに歩いてくる。

「はじめまして、従者さん。あたしはナナイ。預言の巫女よ」

 彼女…ナナイは紅い唇でふんわりと笑った。

 預言の巫女。聖職者のなかで最も尊いとされる地位であった。

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